ConeとCylinder

Cone(円錐)とCylinder(円柱)のお話. 下の図のように,半径$ r $と高さ$ h $が同じConeとCylinderが有ります. この時,Cylinderの体積はConeの体積の3倍に成ります. Cone型のグラスを使って,Cylinder型のグラスを水で満たすためには,3杯注ぐ必要があるという訳です. この事実は紀元前4世紀ごろ,ギリシアの数学者/天文学者であったΕὔδοξος (Eudoxos:エウドクソス)によって証明されました. この記録では,本当にCylinderの体積がConeの体積の3倍に成るのかを,積分の力を借りて確かめて行きます.
$$ V_{cone} = \frac{1}{3}\pi r^2 h $$
$$ V_{cylinder} = \pi r^2 h $$

円の面積

ConeやCylinderは回転体と呼ばれます. ある形を軸周りにグルっと一周させた時に描く曲面と言えます. ConeもCylinderも高さ$ h $を表す直線を軸にした回転体です. グルっと一周させる訳なので,軸へ垂直に包丁を入れると,その断面は必ず円に成ります. 断面積が求まれば,積分を使って体積を求めることが出来ます. 積分は,回転体の軸に沿って回転体の端から端まで断面積を調べて行き,それら断面積の総和を体積とする方法です. 断面積の求め方が判れば,それを回転体の高さ$ h $分だけ積分することで体積が求まる仕組みです. 断面は円なので,円の面積が判れば良いのです. 円の半径をrとした時の面積$ S_{circle} $は次式のとおりです.
$$ S_{circle} = \pi r^2 $$
$ \pi $は円周率. 英語で"Pi"と書きます. これは円周の長さ$ C $と直径$ D $との比率$ C / D $です. 紀元前3世紀ごろ,Ἀρχιμήδης (Archimedes:アルキメデス)は円周率を,96角形を用いて近似していました. また,一辺の長さがrである正方形の面積$ r^2 $を円周率$ \pi $倍したものが半径rの円の面積,つまり$ \pi r^2 $であることも既に確認していました. 古代ギリシアの学者たちが遺した知識には,ただただ驚くばかりです.

回転体の体積

Coneの断面,すなわち円は,切断する場所によってその半径が異なります. このように,回転体は切断する位置によってその断面積が異なるため,"切断する位置"をパラメータとした"函数"としてその半径を表現する必要があります. 函数のような式として表現出来れば,積分を含む数学的な計算が行えるからです. 今,回転体の軸をZ軸とします. 断面はX軸とY軸に広がる円だと考えて下さい. 切断する位置を$ z $とした時,断面の半径を$ R(z) $という函数で表現出来るとします. そうすれば,断面積$ S_{z} $は次式のように書けます.
$$ S_{z} = \pi \cdot R(z)^2 $$
この断面積$ S_{z} $を回転体の高さ$ h $分だけ積分すれば,体積を得られる理屈です. なお,Cylinderの場合は特殊で,どの位置で切断してもその断面の半径は同じです. $ z $に関わらずその半径は$ r $であるので,$ R(z) = r $が成り立ち,円の面積$ \pi r^2 $と一致します.
さて,残す所後は積分だけです. 積分は回転軸,すなわちZ軸に沿って回転体の高さ$ h $分だけ行えば良いので,積分変数はZ軸上の位置$ z $と成ります. 被積分函数は断面積$ S_{z} $ですので,次式が回転体の体積を求める式と成ります.
$$ V_{sor} = \int_0^h \! \pi \cdot R(z)^2 \, dz $$
$ \pi $のような定数(スカラ)は積分$ \int $の外へ出したほうが見やすく成るため,以降外へ出して書きます.

Cylinderの体積

Cylinderは回転体の中でも特殊な形状です. なぜならば切断する位置$ z $に依らず,その断面積がどこでも同じだからです. この特徴を活かせば積分を利用せずとも,その体積を求めることが出来ます. 直方体の体積を求める時と同じ要領で,底面の面積$ S $を高さ$ h $倍したものが体積$ S h $に成ります. よって,底面の面積$ S = \pi r^2 $を高さ$ h $倍した,$ \pi r^2 h $が,Cylinderの体積です. では,答えが解った所で今度は積分の力を借りてCylinderの体積を求めてみましょう.
左の図にある直線$ R(z) $をZ軸周りにグルっと回転させるとCylinderを描きます. この直線$ R(z) $が,回転体の半径ということです. つまり直線$ R(z) $を式で表現出来れば,後は積分するだけでCylinderの体積を得ることが出来ます. 直線の方程式は次式です.
$$ R(z) = \alpha \cdot z + \beta $$
$ \alpha $は直線の傾き,$ \beta $は切片です. 図の直線$ R(z) $は傾き$ \alpha $が$ 0 $です. その証拠に,Z軸をどこまで進んでもY軸の値は変化しません. 切片$ \beta $はZが$ 0 $の時のY値です. この直線$ R(z) $の切片$ \beta $はCylinderの半径と成りますからrです. よって,この直線$ R(z) $は次式として表すことが出来ます.
$$ R(z) = r $$
これを回転体の体積を求める式へ代入すると,次のような結果を得られます.
$$\begin{aligned} V_{cylinder} &= \pi \int_0^h \! R(z)^2 \, dz \\[1em] &= \pi \int_0^h \! r^2 \, dz \\[1em] &= \pi \left[ r^2 \cdot z \right]_{0}^{h} \\[1em] &= \pi r^2 h \end{aligned}$$
Wolfram|Alphaを利用すれば上式のような定積分の解を間違いなく得ることが出来ます. pi * integrate r^2 dz from z=0 to h どのように解いても,Cylinderの体積は$ \pi r^2 h $であることが分かりました.

Coneの体積

左図の直線$ R(z) $をZ軸周りにグルっと回転させるとConeを描きます. Cylinderの時と同様,Coneの$ R(z) $も式で表現してみましょう. 確認のため,もう一度直線の方程式を見てみます.
$$ R(z) = \alpha \cdot z + \beta $$
Coneを描く直線$ R(z) $の傾き$ \alpha $は$ 0 $ではありません. Z軸上を進んで行くとY値がそれに伴って変化しているからです. 具体的に述べるならば,Z軸を$ h $だけ移動するとY値は$ r $に成っていますから,傾き$ \alpha $は$ r/h $だと判ります. これは傾きの定義です. 切片$ \beta $は$ 0 $です. よって図の直線$ R(z) $は次式に成ります.
$$ R(z) = \frac{r}{h} z $$
$ z = 0 $の時,すなわち$ R(0) $では切片と等しくなるので$ 0 $. また$ z = h $の時,すなわち$ R(h) $では$ r $と成るので,この式は正しいだろうことが分かります. では,これを回転体の体積を求める式へ代入してみましょう. 次のような結果を得られます.
$$\begin{aligned} V_{cone} &= \pi \int_0^h \! R(z)^2 \, dz \\[1em] &= \pi \int_0^h \! \left( \frac{r}{h} z \right)^2 \, dz \\[1em] &= \pi \left[ \left( \frac{r}{h} \right)^2 \cdot \frac{z^3}{3} \right]_{0}^{h} \\[1em] &= \frac{1}{3} \pi r^2 h \end{aligned}$$
もしくは,Cylinderの時と同様,Wolfram|Alphaを用いて計算してみても良いでしょう. pi * integrate (z*r/h)^2 dz from z=0 to h 以上より,Coneの体積は$ \frac{1}{3} \pi r^2 h $であることが分かります.

結論

ConeとCylinderの体積を求め終えました.
$$ V_{cone} = \frac{1}{3}\pi r^2 h $$
$$ V_{cylinder} = \pi r^2 h $$
ご覧のように,Cylinderの体積はConeの体積のちょうど3倍です.
$$ 3 V_{cone} = V_{cylinder} $$
立体を一見しただけでは信じ難い事実ですが,Εὔδοξοςはこれを証明したのです.
Εὔδοξος
Ἀρχιμήδης
終わりに. ここで行っていることは数学的な証明ではありません. メモ程度の記録です. そのため,数学において大切な要素である定義や証明をいくつも省略しています. また,説明も決して厳密ではありません. 例えば,回転体の体積を求める式中に居る$ R(z) $という函数は,"連続"である必要があります. $ R(z) $は二階微分可能で無ければ成らないということですが,このようなことは便宜上割愛しました. しかし,そこから得られた結果は真実です. 積分という便利なツールがまだ確立されていなかった古代ギリシアにおいて,この真実が発見されていたという事実には驚かされます. 上の画は本記録に登場した二人の偉大な数学者を描いたものです. 彼らとその発見に敬意を表して.
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