電源の入らないPCの診断

5年ほど前に組み立てて,2年ほど前に使わなくなったデスクトップPCが1台,倉庫の中に眠っていた. 先日,そのデスクトップPCをサーバーとして使おうと倉庫から引っ張りだした所,電源が入らなかった. 電源ケーブルはつながっており,PSU(Power Supply Unit: 電源)のスイッチもI/Oの"I"になっている. はて,どうしたことか. ここではその後に試したいくつかの診断についてを記す. 結果だけを先に記すと,RTC(Real-time Clock: リアルタイムクロック)のボタン電池が切れていたことが原因だった.

診断の流れ

電源ケーブルをつなぎ,PSUのスイッチをONの位置にして,ケース正面の電源ボタンを押しても,うんともすんとも言わない. 電源が入ってすぐに落ちるのならばPSUの保護装置が働いている可能性が考えられるが,今回は明らかにそういった状態では無かった. そこでケースの蓋を開け,一通りの診断を行った.
  1. 線のチェック
  2. PSUの動作確認
  3. ショートの確認
  4. CMOSクリアジャンパピンの確認
  5. CMOSボタン電池の確認
それでは詳細を順に記してゆく.

1. 線のチェック

電源ケーブルを取り替えてみたり,電源スイッチとマザボを結ぶ線が断線していないことを確認したりして,断線が原因では無いことを確かめた. 動いていたそのままの状態で倉庫にしまったとは言え,まずは電源や信号線が"繋がっている"ことを確認する.
EPS12V電源
また,マザボにATX電源(20または24ピン)とCPU用の電源(4ピンのATX電源または8ピンのEPS12V)の2つが供給されていることも確認. 今回は断線が原因では無いことを確認した.

2. PSUの動作確認

PSUが故障している可能性もあるため,動作確認を行う. まずは電源ケーブルを抜き,PSUのスイッチがOFFになっていることを確認. ATX電源コネクタ(20または24ピン)をマザボから外し,緑のピンとGND(黒)のピンをショートさせ,PSUの電源を入れる. ペーパークリップを真ん中で切り,切った小さい方を使うとショートさせるのに丁度良い.
PS-ONピンをショートさせてのPSU動作確認
この緑のピンはPS-ON(Power on端子)と呼ばれ,普段はPSU内部で+5Vにプルアップされているが,そのレベルをLOWに(GNDに接続)することでPSUの電源が入る,言わば電源オン信号線. 今回はこれでPSUのファンが周り,電源のつながっていたHDDなども動き出したので,PSUの故障では無かった.

3. ショートの確認

マザボをケースに取り付ける際,ネジを使う. このネジにはケースGNDとの接点という役目もある. つまり,マザボがケースにきちんとネジ止めされていれば,ケース自体がマザボのGNDになっているということを意味する. ケースにむき出しの信号線やら電源線やらが触れていればショートしている可能性も考えられる. 一通りケースに収まっている線という線を確認してみたが,ショートしている様子は無かった. また,マザボ表/裏面にゴミが付着してショートすることも考えられたが,今回はそういったゴミも無かった.

4. CMOSクリアジャンパピンの確認

マザボ上にはBIOSをリセットするためのCMOSクリアジャンパピンがある. このジャンパ位置が"クリアの位置"にある場合,電源が入らないことがある.
上の場合"CLRMOS1"というのがそれ
確認したところ1-2間をジャンパしている場合は通常状態,2-3間をジャンパしている場合はクリア状態のようだったので,今回は問題のない位置であった.
一通り診断した後,電源ケーブルを外したり,PSUのスイッチを入/切したり,半分あきらめかけながら電源スイッチを連打していたら,突然電源が入った. するとBIOSがリセットされている旨のメッセージが現れた. BIOSの時刻設定を行い,起動デバイスを確認,設定を保存して起動させると,OSが正常に立ち上がり操作が出来るようになった. 何だったのかと,もう一度シャットダウンをし,電源ケーブルを外し,再び電源を入れようとした. すると再びの沈黙. CMOSクリアジャンパピンは通常位置にあったが,BIOSがリセットされているということは,考えられる要因はRTCのボタン電池.

5. RTCボタン電池の確認

電源に接続されていない状態だと,このボタン電池の電力を使って内部時計を駆動したりBIOSメモリの内容を保持する. 長い間放置したことで電池を使い切ってしまったのだろう.
CMOSボタン電池
電池をマイナスドライバで取り外し,電圧を測ってみると,なんと500mVほど. 通常3V前後あるはずの電圧の1/6. 早速新しい電池に取り替えると,何事も無かったかのように起動した.

教訓

ボタン電池が切れてしまうだけで,PCの電源が入らなくなるとは予想外だった. 電池が切れても,BIOSが立ち上がって,設定がリセットされた旨が表示される程度だと思っていた. 診断4まで行った時点では,もっと重大な,例えばマザボが静電気やら熱膨張やらで壊れたとか,PSUが壊れたとか,自力では直せない故障なのだと思いこんでいた. 何よりこういったボタン電池はもっと長く持つものだと思っていた. 修理で大切なことのひとつは先入観をどれだけ捨てることが出来るかだが,まだまだ無意識下で思い込みがあったということだ. "RTCボタン電池が切れることで,電源が入らなくなるマザボもある"という良い勉強になった.
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