1965年フランク・ハーバート著のSF小説「Dune(デューン)」。この3度目*の映画化作品がいよいよ来月は10月15日金曜日から劇場公開される。上映時間は2時間35分。
3度目と書いたが実際に映画として世に出回ったのは今回のものと合わせて2回。1984年にデビッド・リンチ監督が映像化したものが1回目であるが、それよりも以前1975年からDUNEの映画化企画は持ち上がっていた。それがアレハンドロ・ホドロフスキー監督の「DUNE」である。これは「ホドロフスキーのDUNE」という当時の企画が如何に斬新かつ芸術的であったかを紐解いたドキュメンタリー映像として、その断片を垣間観ることが出来るのだが(執筆時点でPrime VideoとU-NEXTにて視聴可)、企画内容が当時としてはあまりに奇抜かつ大規模過ぎたためスタジオ側との折り合いがつかず、資金調達難から実現しなかったという幻の映画作品である。「エル・トポ」や「ホーリー・マウンテン」をはじめ、魂に響く作品たち(後にカルト作品と呼ばれる)を世に生み出してきたホドロフスキー監督。原作小説DUNEにもそういった魂に響くようなスピリチュアルな場面が度々登場するため、ホドロフスキー版DUNEが完成していたら、それはそれは心がどこかへ飛んでいって第三の眼開眼どころでは済まなかったであろう。とかく…キャストにはあのサルバドール・ダリやミック・ジャガーを初め、豪華を通り越して異常なほどの配役。主人公のポール・アトレイデスにはホドロフスキー監督の息子さんを配役していたようで、撮影に向け心身ともに大変厳しい“修行”を課せられていた、とドキュメンタリー内で本人が証言している。絵コンテはすべて完成しているようで、どでかいブロックのような本にすべて収まっているし、この通りに撮影すれば誰でもホドロフスキーのDUNEを撮影出来るまでに完成している、とホドロフスキー本人も語っていた。作画はバンドデシネ(フランスやベルギーを中心に生まれた漫画のこと)作家の巨匠Moebius(メビウス)さん。メビウスさんの作品はAKIRAでお馴染み大友克洋さんや宮崎駿さんにも大きく影響を与えている。この絵コンテに描かれた構図や展開の一部は映画「スター・ウォーズ」や「エイリアン」、「マトリックス」、「ブレード・ランナー」、「風の谷のナウシカ」などにも大きな影響を与えている。DUNE他にも舞台設定の作画に画家のクリス・フォスさん、映画「エイリアン」のキャラクターデザインで有名なH.R.ギーガーさんなども参加(この企画が頓挫した後に、同舞台設定メンバーを招いてつくられた作品がリドリー・スコット監督の映画「エイリアン」である)。音楽も魂に響く音楽ということでPink Floydを採用するなど、企画段階でトンデモナイ内容である。ただし、推測の域は出ないが原作小説に忠実、というよりはホドロフスキー監督作品らしさに重きを置いた、スピリチュアル映画として制作されていたように感じる。DUNEの世界観を借りてホドロフスキー風に料理したメランジ(作中に登場する覚醒ドラッグの名)的映画になっていただろう。兎も角、ドキュメンタリー映画「ホドロフスキーのDUNE」は芸術に携わっている方やそういった創作活動を愛して止まない方々にはとても刺さる内容となっているため、死ぬまでに一度は観ていただきたい映画である。パントマイマー、舞台芸術家、詩人、タロット占い師、映画監督などなど、様々な側面を持つアレハンドロ・ホドロフスキーという人となりに触れることで新たな視点を得、元気をもらえる、そんな作品である。
今年公開の新作「DUNE」は映画「メッセージ」や「複製された男」、「プリズナーズ」、「ブレード・ランナー2049」で映像の魔術師と言われたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。その世界観や雰囲気=Atmosphereを表現させたら右に出るものは居ないほどの映像美を過去作でも観せつけられて来ただけに、作品の舞台である砂漠の惑星“アラキス”へ行ったと言えるほどの体験が出来るのではないかと、わたしの期待も大である。こんな細かな文字サイズではなく、京都五山送り火を更に大きくしたほどの“大”を想像いただければと思う。一番最初に公開された予告篇にはホドロフスキー監督の構想していたDUNEへのオマージュと思しきBGM、Pink Floydの楽曲「Eclipse」が壮大にアレンジされて流れていて感動したことを覚えている。新たに公開された予告篇では惑星“アラキス”に住まう原住民“フレメン”や魔女と呼ばれ度々恐れられる女性集団“ベネゲセリット”、その双方を彷彿とさせるような力強い女性ヴォーカル(Loire Cotlerさんによる歌唱)が印象的なハンス・ジマー作曲によるスコアも披露され、その壮大な世界観と映像美、原作小説のイメージにかなり忠実な印象を覚えた。映画「メッセージ」を劇場で観ることが叶わなかったわたしはBlu-rayで閲覧した時に、映画館で観れば良かった、とものすごく後悔した思い出がある。一番最初、初見こそ“劇場”で体感したい。そんな作品だったからだ。一度映画館で観てしまえば、あとはじっくり家の小さな画面で何度も味わえるが、やはり初見は劇場で、ドン!と迫力を、その世界観を、どっぷりと味わいたい作品をつくるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。「メッセージ」での後悔があったからこそ、この「DUNE」は初見こそIMAXで観ておきたいという強い思い入れがわたしにはある。
さて、先にも書いたように今作の楽曲はハンス・ジマーさん作曲である。The Dune Sketchbook (Music from the Soundtrack)という楽曲集もすでにデジタル配信している。これは“Sketchbook”と題してあるように、おそらく楽曲のコンセプト集だと想定される。ここに収録されている楽曲を元に映画の編集とマッチさせたり、最終的なサウンドトラックとして編集されたものが改めてリリースされることと思われるが、この“Sketchbook”の段階ですでに文字通りの鳥肌ものである。“Music from the Soundtrack(サウンドトラックより)”とも括弧書きがあるので、サウンドトラックから選りすぐんだ楽曲とも思われるが、映画音楽でここまで心躍ったのも久しぶりである。それだけ感情に訴えかけてくるスピリチュアリティがある。ここから更に肉付けされるのか否かは定かでは無いが、何れにせよこれにIMAXの大画面映像美、壮大なストーリー展開、豪華なキャスト陣の演技など、究極の没入感が加わるのだと想像するだけで早く観たくて仕方ない気持ちに成ると同時に、こんな超大作映画の公開を生きているうちに迎えることが出来て幸運であると思えてならない。嬉しいじゃない!
また、今回の映画化についてまとめた書籍「ドゥニ・ヴィルヌーヴの世界 アート・アンド・ソウル・オブ・DUNE/デューン 砂の惑星」もDU BOOKSより出版される予定となっている。初回限定3,000部(予定)として絶賛予約受付中。本国版(英字書籍)となる「The Art and Soul of Dune」も確認できる。映画鑑賞後にしばらくかぶりつきになること必至の書籍だろう。
今作を観る上で、事前にある程度の知識がほしいという方は海外ポップカルチャー専門メディア“THE RIVER”の記事が大変参考になるので、一読することをお勧めしたい。
THE RIVERでは他にも「吟味する5つの重要ポイント」と題して記者会見レポートを5回に分けて公開している。撮影の裏話やこぼれ話なども読めるため、こちらもお勧めである。- 『DUNE/デューン』ティモシー・シャラメ、出演の決め手は? ─ 吟味する5つの重要ポイント【会見レポ1】
- 『DUNE/デューン』ティモシー・シャラメ、「ドラゴンボールZ」は少年時代の「最重要作品」 ─ 日本アニメからの影響とは【会見レポ2】
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