永きに渡って素晴らしい音を鳴らしてくれていた山水電気製(sansui)のプリメインアンプ「AU-α607KX」が故障した。
SANSUI AU-α607KXの仕様 サンスイ ― オーディオの足跡まだ学生時分にヤフオクだかで競り落とした物。山水電気と言えば元は良質なトランス(変圧器)を生産していた会社で、「山のごとき不動の理念と水の如き潜在の力」という企業理念が大変印象的なオーディオ機器メーカーでもあった。1980年代が絶頂だったが、その後は衰退し現在はその名前だけが残っているものの、会社自体は2014年に倒産してしまう。
電源を入れると明らかにトランス(内部中央に鎮座する“sansui”と書かれた大きく重たい物体)からパチパチパチ…と内部放電を仄めかすような音が聞こえたことが故障の始まり。最初は音も小さく、曲と曲の間の静寂に微かに聞こえ、「ん?」と思ったことを覚えている。
その音も次第に大きくなり、ついには電源ボタンを入れても電源供給が不安定なことが一目瞭然で、平滑コンデンサに蓄電できないのだろう、電磁リレーによるスイッチも入らず、結果音が出せない状態に。次のGIF画像を見てもらうと、如何に電源供給が不安定か、お分かりいただけることだろう。
パチパチ音はトランスから聞こえることは間違いないので、sansuiの同系統プリメインアンプを入手し、トランスだけ移植するという手もある。わざわざ別のアンプを入手するなら、それを使えばいいだけの話だが、どうも永い年月を共に過ごすと愛着が湧いてしまって、どうしても治したくなってしまうのだ。そうすると別の問題も起こる。それはトランスを抜き取られたアンプへの憐れみだ。手元に届いてすぐに心臓(トランス)をくり抜かれ、はいじゃあね、と押入れに仕舞い込むなんて酷すぎる。アンプへの倫理観に悩まされている昨今。
もっと言えばトランスを移植して治ったとしても、コンデンサなどの他の部品も寿命が近い可能性は十二分にあること。コンデンサが寿命を迎えると、電解液が漏れ出したり、さらに面倒な事態が生じかねない。このまま告別式を執り行うべきなのだろうか。それが最も敬意を込めた“修理”なのかもしれないと悩む昨今。
Hi-Fiアンプなんてもう造られないだろうし、いま中古ショップやオークションなどにある在庫も寿命の近いものが大半を占めているだろうことから、デジタルアンプへの移行期なのかなぁ、と考えたりしている。確かにDACやBluetooth機能があると便利だ。DACがあればパソコンからUSB経由などで音楽を再生できる。Bluetoothなんて、ワイヤレスで音楽プレイヤーやスマートフォンの音楽を再生できる。けれど、ディスクリート部品たちが集まって出来た、街のミニチュアのような基盤を持った、馬鹿みたいにどデカいトランスで動くアナログアンプに、すっかり魅了されてしまっている私もいる。自作の道もあるけれど、今のわたしにはだいぶ険しい道のりだ。
さて、音楽はひとまずパソコンで聴くこととする。TA2020-020というデジタルステレオアンプICを載せた自作アンプがある。USB-DACを内蔵させたので、それでしばらくは音楽を楽しもう。とはいえ、変化に迫られていることに変わりはない。sansuiのアンプもそれを悟り、自らを犠牲にわたくしの背を押してくれたのかも知れぬ。「もう変わる時だぞ」、と。