西暦二千二十二年になりました。新春へ向け陽の氣を貯める冬眠の時期、みなさんいかがお過ごしでしょうか。“肝腎要”と言う言葉があるように、肝腎もとい内蔵を極力温め、一方精神ではイデアを温め、日々営んでいるわたくしです。今年も新年になって早々、家族友人へ手紙を送りつけました。昨年までは「New Year Cards」と呼んでいましたが、今年は改め「新年葉書」と題して手紙を制作(年賀状ではない点これ大事)。ここでは“葉書”が出来上がって行く断片を貼り付け、直接お送りできなかった方々へもこの葉書の“恵風”が届くことを願って、「新年葉書」をご紹介します。
素材その一。わたしは勝手に「羽衣和紙」と呼んでいます。とても薄い和紙で、向こうが透けて見えますが、“和紙”と言う名に狂い無く、そう簡単に千切れることの無い丈夫な紙です。とても綺麗で、さわり心地もとても良いです。
素材その二。新緑という言葉の似合う葉っぱや乾いた茶色の葉、竹の繊維も織り込まれた和紙です。葉や繊維の入り方がとても美しい紙です。
素材その三。秋に紅葉の落ち葉を拾い集め、押し葉をつくっておりました。土に還る葉を贈る、この行為に何かを感じてもらえると嬉しいです。
最初は和紙を封筒のサイズより気持ち大きめに切り抜きます。定規を使ったので辺は直線ですが、角度には拘らず、自由に切り抜きました。
窓から入る風で和紙たちはそよそよ飛んで行き、ゆったりと部屋を漂っていました。
葉入り和紙も同様に切り抜きます。葉は乾燥しているため上手に切らないとパリパリと崩れてしまいます。葉が、竹の繊維が、綺麗な模様になるように切る場所を見定めて、けれど無駄が無いよう注意して切り抜きました。
素材が良いので、これだけでもとても綺麗です。
今回はなるべく“和”に拘って、数字も漢数字で。けれど混乱させすぎないよう西暦で。今年の手紙には絶対に筆文字を入れようと決めていました。
筆文字は人の体温や表情が感じられるものです。けれど今回使った和紙だとどうしても裏写りしてしまいます。裏面はそれを避けるため、タイプライターで刻印を施しました。ひらがなのタイプライターがあれば理想的でしたが、わたしが持っているものはアルファベット。アルファベットで手紙に気持ちを込めて行きます。
ローマ字、いわゆる発音だけを表す記号(文字)で日本語を綴ったため、漢字で書くよりも抽象度が増し、却って良い印象になったように感じました。“和”に拘りつつも、時より寄り道。
お次は外の空気に触れながら、小麦粉大さじ一杯に水を半合ちょっと加えて行きます。澱粉糊づくりです。羽衣和紙と葉入り和紙で紅葉の押し葉を貼り合わせるのです。
先人の知恵、水で溶かした小麦粉を煮詰めると、自然由来で張り付きも良く、けれど乾燥した糊を水で濡らせばするりと剥がれる不思議な糊になります。性質上、障子張りに重宝します。実際、余った和紙とこの糊で障子の穴を修繕しました。
とろみが出たら澱粉糊の出来上がり。色は白濁としていますが、紙に塗って乾燥してしまえば、ほぼ無色透明になります。
では思い切って…。
それぞれの紙の形、葉の形、模様に合うよう一枚ずつ張り合わせ、紅葉の葉を込めて行きます。
すべて張り終え、並べてみました。とても良い出来です。糊が乾燥するまで、平たい板で挟み、重石を乗せて紙が反らないようにします。
こうして「新年葉書」は完成しました。種類は二種類、横形と縦形。それぞれに意味があります。届いた方にはどちらが届いたのでしょうか。糊が完全に乾燥したことを確かめて、封筒に入る大きさになるよう四辺を裁断しました。
横形の裏面です。どちらが表でも裏でも構わないのですが、この記事でのみ便宜上こちらを裏としておきましょう。
こちらは縦形の裏面です。縦横どちらも墨、紙、印、葉、そこに在るすべてが世界を創ります。
最後に、昨年撮影した写真の中から送る方に相応しい光を印刷し、裏には言葉を。写真と葉書を封筒に入れ、お米粒で封をして、「光」と「米」の合わせ字を記すことで、小さな世界をそっと封筒の中へ込めました。封を開けた瞬間、あなたの世界が、精神の視野が飛翔することを願って。
それでは今年もどうぞよろしくお願いします。これを読んでくれた貴方にも、新たなご縁がありますように。めぐる、まわる、ちきゅうはうごく。